2011年9月23日金曜日

最近読んだ本から

最近読んだ本から2冊紹介します。

古市憲寿(2011)『絶望の国の幸福な若者たち』、講談社
宮台真司(2011)『宮台教授の就活原論』、太田書店

古市さん(@poe1985)は、東京大学で社会学を専攻する博士課程院生です。以前、ピースボートに乗船する人たちをテーマにした『希望難民ご一行様』を読んだことがあり、軽妙な文体とその文体に似つかわしくないようにさえ見える膨大な知識のアンバランスさに関心を持っていました。今回の本は『希望難民ご一行様』以来立て続けに出版された著者の「若者論」の延長線上に位置する一冊です。

宮台さん(@miyadai)は、首都大学東京に所属する大学教員です。以前より著名な社会学者であることは知っていましたが、これまでは書店で立ち読みしたり、図書館で軽く読む程度だったので、実際に書籍を購入したのはこれが初めてです。

さて、その内容ですが、 2冊とも「若者」に焦点を当てています。ただし、焦点の絞り方には大きな違いあるようです。

古市さんは、社会学を中心に論じられてきた「若者論」の整理から出発し、いくつかのフィールドワークから得られた論点を示しています。一方で、宮台さんは、首都大学東京で2007年から2年間、就職支援委員会委員長を務めた間に考えた「大学生が就職する際に直面する(昨今の)問題」をベースとして論じています。

古市さんが描き出す「若者」は、「こういう人もいるけれど、これでいいんだよね」という視点のように思えます。他方、宮台さんの「若者」は、「こういう風に考えているようだけれど、こんな風に考えたらもっといいのに」という視点に見えます。この視点の違いは、まだはっきりとつかめてはいませんが、私がいま取り組んでいることと大いに関係があると考えています。それはおそらく、「事実」と「価値」の捉え方と関係する話です。

最後に、本の内容とは直接関係ありませんが、二人の著者に共通する点として、院生時代に企業で働いている点を挙げておきます。共に、ベンチャー企業に身を置きマーケティングに従事している(していた)そうです。本の内容とは直接関係がなさそうですが、このような働き方が、古市さんのように今の院生に限ったことではなく、宮台さんが院生の頃からあったことは大きな発見でした。

【つけたし】
文系院生のキャリアについては、悲観的な話題ばかり先行しています。実際にアカデミアで職を得る厳しさを考えると、仕方がないことかもしれません。しかしながら、ノンアカデミック・キャリアに目を向けると、現在のように文系院生のキャリアの厳しさが顕在化する前から、さまざまな働き方を選んだ人たちがいるのではないか、というのが現時点での私の考えです。この点において、2冊の本は多くの示唆を与えてくれました。

2011年9月20日火曜日

826National

まずはこの動画をご覧ください。
(プレイボタンを押したあと、「25languages」の中から必要な言語を選択すると字幕を出すことができます)



この動画は Dave Eggers がTED Prize というイベントで行った講演です。

この講演では、彼がアメリカで「826National」という民間非営利のライティングセンターを立ち上げるまでの経緯とその後の状況が語られています。

ところで、ライティングセンターとはどのようなものなのでしょうか。

1980年代、アメリカの大学において、学生の基礎的ライティングスキルを育成することを目的として設置され始めたとされ、現在ではアメリカ国内のほとんどの大学にライティングセンターが置かれています。設置当初は、英語を母語としない留学生やレポート作成に悩みを持つ学生たちをターゲットとしていたそうです。しかし、1990年代に入ると、学生はもとより、教員や職員に対するサポートも行う全学的な機関として位置づけられるようになります。日本国内でもこの取り組みが注目され、早稲田大学ライティング・センター津田塾大学ライティングセンターが相次いで立ち上がりました。現状では、その輪は徐々に全国へと広がりつつありますが、まだ十全に整備されていないといえます。

大学内のライティングセンターの特徴として以下の2点を挙げることができます。まず、大学でのレポートや論文作成(いわゆるアカデミックライティング)に対する指導を行うことを目的としていますが、文章の校正や添削を行われず、指導を受ける人が自発的に書くことを通じて「文章を書き上げる力」を身につける点にあります。次に、基本的に個別指導の形態を採用している点です。なお、これらの点は、すべてのセンターに共通するわけではありませんが、ライティングセンターのWebサイトに明記されているケースもあります。
>例:MIT Writing & Communication Center

一方、海外では、大学内のみならず初中等教育向けのライティングセンターが非営利組織として多く存在しており、学校外で放課後の時間帯や週末を利用したライティングに関連する取り組みが行われています。また、非営利組織が学校のカリキュラムに組み込まれたり、ライティング指導のメソッドを学校教員たちと共有するケースもあります。ここでは、アメリカとアイルランドとイタリアの民間ライティングセンターをご紹介します。

826National
Dave Eggersによって設立されたライティングセンター。サンフランシスコのバレンシア(826Valencia)に開設されたのを皮切りに、ニューヨーク(826NYC)やシカゴ(826CHI)などアメリカ国内8か所で活動が行われています。雑貨店などを活用した学習環境づくりが興味深い事例です。

Fighting Words
826Nationalから影響を受けたRoddy DoyleとSean Loveによってアイルランドにつくられたライティングセンター。ストーリーテリングなどのワークショップが特徴的です。

La Grande Fabbrica Delle Parole
イタリアで行われているライティングセンター。作家やデザイナー、芸術家などが関わっていて、実験的な取り組みが多くあります。


最後に、私たちはライティングセンターを文章を書きたい人(書き手)もしくは書く必要がある人が、自ら書くことを通じて、文章を書く技術《ライティングスキル》を習得するために設けられたものだと捉えています。また、書き手が文章を書くことを重ねる中で考える機会を持ち、批判的思考《クリティカル シンキング》や論理的思考《ロジカル シンキング》を身につけることを"目標とする"組織ではないかと考えています。

2011年9月19日月曜日

WRITING CENTER JAPAN BLOG を始めます。

WRITING CENTER JAPAN BLOG を始めます。
この日記では、以下の点を中心に書き綴りたいと思っています。

  1. WRITING CENTER JAPAN の近況報告
  2. 文系学部生の就職と進学
  3. 文系大学院生の研究環境とノンアカデミック・キャリア
  4. 学びたい人の参考になりそうな情報
  5. ラーナー・エクスペリエンス・デザイン
  6. 人文学のアウトリーチ

当面の目標は、こまめに記事を書くことです。
どうぞよろしくお願いいたします。